鹿の積ん読

漫画を読んだり、小説を読んだり。好きなものの話をします

2021年7月まとめ

 

 暑い。暑すぎる。最近は本当命の危険を感じる猛暑で、ずーっとクーラーの効いたおうちに引きこもっています。おかげで今月はかなり色々読めたし見れた気がしますね。本当は魔法特集みたいな感じにしよっかなーと思ってたんですが後半何気なく触れた作品が立て続けにスマッシュヒットを記録したのでかつてなくバラエティに富んだ内容になりました。では、魔法特集の名残である小川哲の小説から。

 

嘘と正典(小川哲)

  何年か前に無料公開され話題になった名短編「魔術師」を冒頭に置いた短編集。何度読んでも情報量の操作、およびその正確さがずば抜けていますね。過不足なく、淀みなく、人の身で成り立つ正確さだとは思えなくなる瞬間がある。通底するテーマは過去と今の連なりでしょうか。これはもちろん一面的な見方ですが、一連の短編は俯瞰するといずれも「魔術師」のバリエーションのように見え、しかしその面白さに決して飽きずに楽しめる技量が恐ろしいです。個人的に一番好きなのは「ムジカ・ムンダーナ」。

 

 

友達として大好き ~3巻 (ゆうち巳くみ)

 早くも完結。 成長物語としてはたしかに一つの結果が出ているし、思い返してみるとイベントも急速で消化していたので納得は納得なのですが、しかしもうちょっと見たかったな~! 

 それはともかく、最初から最後まで読み心地がすごく良い作品でした。キャラがみんな素直でいい子ですごくかわいいんですよね。他人が大切にしているものを、間違いながらも大切にしようとする姿勢がいい。文化祭準備のエピソードなんかで顕著ですが、客観的に見て「そこまできちんとしなくてもいいんじゃない?」と思える約束事を全力で守りにいくサナコと、彼女の姿勢を尊重する学生らが本当に好きです。

 

 

MIU404

  連ドラ見たのすげえ久々。それこそ「アンナチュラル」以来かもしれません。ミステリの構図、画面の構図の使い方がすごく巧みな作品でした。二話でわかりやすく強みを見せてくれたのもありがたかったです。警察機構に属する彼らの推理は犯人には辿りつけてもその背後――罪を犯してしまうシステムへまでは踏み込めない、というのを自覚しているのが非常に好み。犯人の事情を知り、寄り添うことはあってもそれはあくまで個人の行いの範疇を出ない。ピタゴラ装置が自身のそばにも置かれていることを意識し、時に私情に振り回されながらも自身の役割を全うしようとする彼らのお仕事の先に、今とこれからの社会はあるのでしょう。

 

 

エリア51 ~15巻 (久正人

 神話、UMA、 妖怪などなどあらゆる超常が詰め込まれた閉鎖区・エリア51を舞台に、私立探偵マッコイの活躍を描いたなんでもありなごった煮アクション。とにかくカッコいい。黒の使い方もストーリーの流れもひたすらにカッコいい。たぶん世界一カッコいいすだれハゲが出てくる漫画だと思います。

 外連味溢れ、わりとノリ&勢い重視っぽいガワからは考えられないくらい理性的にエピソードを展開しているところもすごくよかった……とか思ってたら最終巻のあとがきでひっくり返りました。行き当たりばったりでこの出来なの⁉ どうなってんだ⁉

 

 

オッドタクシー

oddtaxi.jp

 此元和津也がアニメ原作を⁉ とびっくりして見始めたら面白くて一気見しちゃいました。お笑いのメソッドをもとに群像劇サスペンスを描く手つきがすげえよかったです。動物のガワが程よくエグ味を抜いてたり、全編計算のもとに成り立たせてあるのがよくわかる。そのうえで最終話にて前提を崩す(ひっくり返す、ではない)のがさらによかったですね。とんでもねえラストだったと思います。探偵役不在のお話において、事件の解決には辿りつけても犯人までには辿りつけない。

 あと、全話見終わった後に漫画も読んだんですが、漫画の方もすごく面白かったです。ストーリーの流れをほぼ踏襲してるのに雰囲気が全然違うんですね。漫画版、超オシャレ。そんで白川さんが妙にエロい。

 

 

 というわけで今月はここまで。小説、漫画、アニメ、ドラマととても楽しいひと月でした。映画も見れればなあ……ポンポさんかスタァライトかが近くでやってればなあ……と先月と同じこと言いますけど、言いますけどようやく見に行けそうです。帰省ついでに見に行けるぜ! 盆休み万歳!

 

 

2021年6月 まとめ

 

 一か月がやけに早く、気づけば2021年も半分が過ぎましたね。最近の僕は読書以外だとMTGアリーナをやっています。デュエルマスターズしかTCGの経験がなかったので敵のターン中でも呪文が使えたりなぜかクリーチャーも呪文扱いだったり、新鮮な気持ちで楽しんでいます。マジで勝てないのでデッキを調べてコピーデッカーとして戦っていたのですが、敵のデッキって直接狙っていいものなんですか? 土地とかクリーチャー出すだけでゴリゴリ敵のデッキが減っていくのひどくない?

 次は「精霊龍、ウギン」ってカードがデカくて面白そうなのでこのカード使うデッキ作りたいです。

 

 

 では、今月面白かった作品たちの話に移りましょう。ゴジラとダイナゼノン終わっちゃいましたねー。 

 

 

「映画大好きポンポさん」シリーズ (杉谷庄吾)

 これはあれですね、映画じゃなくて一連の漫画シリーズです。スピンオフ二作、短編集一作、本編三作の計六冊。映画への愛を片手に始まったシリーズが四年かけて六冊の単行本を出し、ついには映画にまでなったと思うと感慨深いものがあります。

 改めてシリーズを読み返してみると、「どう読まれるか」に恐ろしく自覚的なシリーズですね。90分で過不足なく完結した一作目、「続編」として自らに目を向けた二作目、そして番外編をはさみフィナーレとしてエンタメを標榜した三作目と、いずれも情熱と計算の上に立つ見事な作品だったと思います。映画を愛す人間による映画についてのシリーズでした。

 映画版ですか? 近所の映画館でやってないので観れてません。超観たい。スタァライトも上映してないし、どうしよう。こういうとき田舎は困る。

 

 

るん(笑) (酉島伝法)

  最近にわかにSFめいているので、新規の作家で何かしら読むか~と軽い気持ちで読み始め、ひどく後悔した一作です。とにかくキツかった。本当に途中でやめようかと思った。本作はスピリチュアルと言葉遊びが幅を利かせるIF世界を舞台にした短編集で、発想と言語操作によってつくられる生々しく飲み込みがたい日常が一冊ずーっと続く拷問のような本で――これめっちゃ褒めてるつもりなんですけどけなしているようにしか見えませんね……日本語難しい……。

 とまあ日本語すらうまく使えない僕とは違い、本作では言葉による世界の組み換えが随時、最初から最後まで絶えず行われており読んでいて真面目に具合が悪くなってきます。言葉によって存在しない線をなぞり、無意味な流れに意味を見出してすぐそばにある破滅から目を逸らす。地獄のような日々で堂々蠢く悍ましいアイデア群の中でも「千羽びらき」は特に白眉な最悪さに満ちた短編であったと思います。マジで嫌だ。

 

 

ゴジラ S.P

godzilla-sp.jp

 

 脚本に円城塔を迎え、ネトフリで配信された新ゴジラ。いやー面白かったですね~。ホントに面白くて……面白かったですねー。えーと、面白かったですね!

 今、感想を書こうとして「面白かったな」しかでてこないことに驚いています。わかりやすい! よかった話が追えるし面白いぞ! と思っていたのに、実はちゃんと理解してなかったのかもしれません。何が起きたのかはわかってるけどなぜそうなるのかはよくわかってない的な。逆に言うとそれでも流れが理解できて楽しめる作りになっていたということですかね。言語SFの名手・円城塔節全開の展開も見たかったですが、こういう形で翻訳がなされた本作の方がずっと楽しめたのは確かでしょう。終始好き勝手に無茶苦茶やってたオオタキファクトリーの面々とラストにすべてを持っていった悪人顔の皆さんが好きです。

 

SSSS.DYNAZENON

dynazenon.net

 

  特撮ほとんど通ってなかったのになぜか今期観たアニメふたつとも怪獣アニメです。というわけでダイナゼノン。前作グリッドマンと比べて落ち着いていて、どこかダウナーでさえある日常パートがすごくよかったです。もはやどうしようもない過去に対してそれぞれの答えをしっかり出しているのがさわやかですね。会いたい人に会えないままに役割を果たしたガウマ、答えが得られないという答えに納得した夢芽、それぞれに過去を踏まえて真逆の答えを出した暦とちせ。上手く人の群れに馴染めない、怪獣のような面々が最終話でゆっくりと歩きだすのがとても良かった。

 怪獣優性思想という敵役も良かったですね。安全とはいかないまでも近づくことはできて、会話もできる敵。同じ学校に通ったりサシで酒を飲んだりさえしたにもかかわらずどこまで線分を伸ばしても決して交わらない存在。怪獣を使う怪獣。あんなにユーモアあふれるキャラなのに最後まで全く「分かり合えなかった」のがすごく好きです。

 

 

 今回はここまで。三ヶ月追いかけてたアニメふたつと漫画小説一作ずつの計四作です。最近アニメ見たい気持ちなのでまたぞろ何か見たいですね。把握してる範囲だと「かげきしょうじょ!」が楽しみなんですがネトフリ配信あるかなあ。それ以外だとエヴァまどマギとか観たいです。ただまとめ観るってのができない質らしいので、のんびりと触れていければと思います。

 

 

 

 

 

 

2021年5月 まとめ

 別段忙しかったわけではないのになぜか今月は過ぎるのが早く、やろうと思っていたことが全然終わっていません。この記事も大慌てで書いています。月いちブログ、基本的にそんなに時間がかからないはずだし実際はじめちまえば早いのですがなぜかいつもギリギリになるのは何故でしょうね。

 

君のことが大大大大大好きな100人の彼女 〜5巻 (中村力斗 / 野澤ゆき子)

 いわゆる少年誌的ハーレム展開を加速させて、加速させて、加速させて誕生した驚異の作品。こういうのって可愛い女の子がいっぱい見たい!くらいのコンセプトから始まるもんだと思うのですが、いたって真面目にやった結果がこうなるのだから世の中分かりませんね。一見するとどうかしてるんですが、もしかしたら最適解かもしれないと思わせるだけの論理が垣間見えるのがすごい。すさまじく卓越した技術力だと思います。五巻時点で十人超のキャラが紙面狭しと動き回る異常なドライブ感を伴う漫画と化しているのですが、これ本当に百人いけるんですか?余白という物理的な限界が近づきつつある中で一体どんな展開をしていくつもりなのか。今後どんな無法を繰り出してくるのかとても楽しみです。

 

 

裏世界ピクニック ~6巻 (宮澤伊織)

 ネットロアを題材にしたホラーSF百合冒険小説。改めて要素を抜き出すとすごい欲張りセットですね。異界のルールで動く裏世界のわくわく感と、妙な生活感とか銃器や農機、カラテといった現実感が一緒くたになった雰囲気がとても楽しい。好きな相手と知らない世界で冒険するのは当然楽しいですからね。話が進むほどに冴月さんが単なる舞台装置に成り下がっていくあたり容赦ねえなーとも思いますが、あれは理の外に行ってしまった存在ですから当然の零落とも言えるかもしれません。

 

 

三拍子の娘 1 (町田メロメ)

  今月の新作漫画では一番のヒット。三拍子というタイトルに表されるように、親の失踪から日常の四方山話までがずーっと同じテンポ・同じテンションで語られるフラットさがとても爽やかです。アイツムカつくし許してねえけどいいとこあったのも認めないとフェアじゃねえよね、けどまあ日常は待ってはくれないし邪魔だからーーと過去を傍に置く健全さ。ラストで過去が向こうからやってくることが示唆されましたが、彼女たちの三拍子が崩れることはない、あるいは崩れてもすぐに元のテンポに帰っていくだろうという安心感があります。

 

 

女の園の星 2 (和山やま)

 これ、三巻以降の表紙どうするんでしょうね……。まそれはともかく、 一巻に引き続き絶妙な塩梅で繰り出される素敵ワードがとても良かった。さらりと流れるセリフがいちいち良い。わかりやすいキャラ付けがないのにそれぞれに迸る個性があるのがすごい。星先生のキャラクター、本当に形容し難い良さがある。

 コメディ・ギャグの感想って難しいな……。

 

 

 三千世界を弔って 1  (二ツ森曜子)

  こっちもかなりのヒットでしたが出たのが四月なので今月の新刊ではないです。こういうワンアイデアを飛び石のように移り渡ってひとつの大きな流れ(に見える何か)を作り出すタイプの話はとても好きです。最近だと「宙に参る」とかもそうですね。そういえばあっちも葬式の話だな。

 さまざまな形で終わりを迎えた後の世界を神とロボット、すなわち人ではないものたちが旅をするというのがとても好み(ヨミもミコもかなり人間的に描かれてはいるますが)。弔いの対象を人ではなく世界そのものとしながら、どうしようもなく人間への愛情が溢れている雰囲気も素敵です。にしても、黄泉と巫女ってネーミングはダイレクトですね。

 

 

 今月はここまで。最近かなり漫画読んでる気がしますが、映画もどんどん観ていきたいなという気分でもあります。ポンポさんもスタァライトも近所でやってないみたいでおれは泣いた。ネトフリで何か探すかな〜。

 あと、漫画小説の話ばっかりしているので、毎月一曲くらい最近聞いた好きな曲とか置いたりしようかなとかも考えてます。もっと節操ない記事にしたい。

 

 

 

2021年4月 まとめ

 

 なにやらまた外出が憚られる今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は新生活にあわあわしつつ、のんびりおうちで過ごしています。つまりはいつも通りっすね。変わったことをひとつあげるなら、ついに入ったNetflixでいろいろつまみ観たりしてます。アニメとかは全部観終わってから感想書きます。わかったんですが私はアニメ・ドラマを一気に見れない体質らしい。

 ちなみにネトフリに入ったのは、外出できないからとか一切関係なくではなく「ゴジラS.P」と「SSSS.DYNAZENON」が観たかったからです。両方面白いので入ってよかった。他にもコミックDAYSのプレミアムプランにも入ったり、Amazonのために置き配ボックス買ったり、引きこもりの準備が着々と整っております。GWは色々観れたらいいなあ。とりあえず「水曜どうでしょう」は作業のバックで流すのにとてもいいですね。観ても観なくてもいいあの感じとても好ましい。

  では今月面白かったやつ。

 

シャドーハウス ~7巻(ソウマトウ) 

 無料公開で読んだところ先が気になってしかたなくなり、勢いのままに最新刊まで追いつきました。表情豊かな生き人形たちと顔のないシャドーたちが醸し出す独特の雰囲気がとてもいいです。初期の何が何だかわからない不穏な空気も、中盤以降のアクション・ドラマの両面で動きある展開もどちらも好き。一巻読んだ時点ではこんなにエンタメな展開があるとは思ってもいなかったので驚きでした。序盤の言い知れない不安な絵作りがなくなってしまったのは損失だなとも思いますが、この辺は難しいですよね。少なくとも今の面白さは謎が開示されたからこそですし。

 

 

Thisコミュニケーション ~3巻(六内円栄)

 完全にノーマークだったんですがめっちゃくちゃ面白かった。気難しい思春期の少女たちとのコミュニケーション……を非日常の極地である「終末世界の戦場」で行う漫画です。双方向でしかるべきコミュニケーションが、「死ぬと一定期間の記憶を失う」というハントレスの特性によって極端に一方的な押し付けになってるのがすごい。少女の死をあくまでギミックとして扱う冷たい視点を持つ男・デルウハですが、結果だけ見れば少女たちのメンタルケアにはなってるんですよね……。自分を理解させずとも、相手を理解し意図された会話を交わすことで、コミュニケーションは成立する(しているように見える)。

 

 

アンデッドガール・マーダーファルス 3 (青崎有吾)

  何年ぶりの新刊だ? 前々回がミステリ、前回がバトルアクションに大きく比重を傾けた構成であったことを考えると、今回謎解きとバトルのバランスが上手く釣り合った作りになっているのは当然の流れといったところでしょうか。これまでの二巻で「どんな話か」が提示されての三巻。騙す存在であると同時に襲う存在でもある人狼は本作にぴったりの題材でしたね。重なりあうふたつの事件をひとつの手がかりから一息に解きほぐす面白さと、なぜか賭郎立会人まで出てくるオールスターバトルな暴パートの楽しさが無理なく同居してるあたりがすごくいいシリーズです。

 

 

 イマジナリー 1巻 (幾花にいろ

イマジナリー 1 (楽園コミックス)

イマジナリー 1 (楽園コミックス)

 

  幾花にいろ先生による全年齢向け駄弁り漫画。物語――すなわちフィクションである以上はある程度の筋というか流れがあってしかるべきで、例えば本作では幼馴染のもどかしい恋愛模様がおそらく本筋にあたると思うのですが、そんなことは置いといてあらぬ方向へ逸れたりどこにも向かわず止まっていたりと実にならない会話劇がとても良い。作り物でありながらそれを感じさせない技術、と書くと矛盾しているようにも見えますがホントにそんな感じがあります。自然に展開される生々しくも賑やかな会話と適宜挿入されるイマジナリーが、紙面の向こうで現実とフィクションを当然のように溶け合わせているところが非常に魅力的。絵とセリフのレベルがカンストしてるのって漫画においてものすごい武器だと思います。

 

 

 今回はこれまで。ゲームについても書こうかと思うんですが、ゲームあんまりやってないので無理でした。今はポケモンスナップがめちゃくちゃほしいです。ただスイッチもWi-Fi環境もない生活ですのでしばらくは難しい……。Wi-Fi環境なくても意外と何とかなるとわかってしまった以上、しばらくはこの生活が続くかと思います。いやでも欲しいな! ポケモンスナップのプレイ動画を見たら飢えがしのげるかと思いきや余計に欲しくなってます。くそ~。

 

 

 

 

 

2121年3月 まとめ

 

 シン・エヴァンゲリオン観てきました。見出し作って個別に挙げりゃいいというのもわかるんですが、昼も夜もなく延々エヴァへの言及が流れてきてた現状で私が語る余地は全くねえな、でも全く触れないのもどうなのかな、ということで、とても楽しかったですとだけ言っておきます。マリと冬月がとても良かったです。

 では今月読んで面白かった作品たちです。

 

 

機動警察パトレイバー 文庫版1巻~10巻 (ゆうきまさみ

 リンクが文庫版じゃないのは気にしないでください。なんか見つからなかった。

 アニメ・漫画・小説・映画などなどメディアミックスが多岐にわたる言わずと知れた名作ですが、私、全媒体を通して今回が初めてのパトレイバーとなります。「ロボで戦う」「くたびれたおっさんが出てくる」「あっ軽い人びと」くらいしか知らない状態でスタートしましたが、この前知識通りの作品で、かつ予想を軽々超えて面白かったです。

 とても面白かったんですが、想像と大きく違うタイプの面白さで驚きました。ホントに少年誌でこれやってたのかよと言いたくなるくらい渋い。活劇感が全然ない。主人公が大人……というかメインが社会と組織と個人的な内面の話になってるのがすごいですね。当時読んでた少年たちはこのセリフ回しをどう受け取っていたんでしょうか。

 ついでに、この人が有名な後藤さんか……というちょっとした感動もありました。ちょい役かと思ってたら主役食うくらい目立ってて笑っちゃった。そりゃ人気でるよ。

 次は映画版とかも観たいですねー。どっかで配信してないかな。

 

 

呪術廻戦 公式ファンブック ( 芥見下々)

 この記事は基本何でもありなので当然ファンブックもありです。全体通して芥見先生がただただオタクでしかなくて笑ってしまった。黒棺について延々力説してるくだりがキモくて好き。BLEACHハンターハンターは当然として、嘘喰い喧嘩商売/稼業の話までしれっと出てくるのがまた良いですね。喧嘩稼業の話五回くらいしてなかった?

 こういう、どうやって話作ってるかの裏側を知れる本はやっぱり面白いです。八巻までの各話解説とかすげえ楽しい。幼魚と逆罰はDA PUMPのせいだったか……とか。

 ただ、あまりにもぶっちゃけてるというか妙に生々しい(この表現は少し違う気もする)手触りがあるので、苦手な人は苦手な本かもしれません。私は好きなんですけど、ライナーノーツ的なのって苦手な人も割といませんか? まあ呪術廻戦ファンブックといいつつ芥見下々徹底解剖みたいになってるのはどうかと思うけどな!

 

 

さんかく窓の外側は夜   〜10巻(ヤマシタトモコ

 

 完結。映画どういう構成になるんですかね。主役二人の関係に絞るのかな。

 冷川と三角を軸に、「信じる」「繋がる」「呪い」などシンプルなキーワードでストーリーをまとめ上げた手腕は流石です。キーワード群の中でも特に「信じる」ことが中心にあるのがホラーでありヒューマンドラマでもある本作にぴったりだなと改めて思いました。呪いの一形態として、目に見えるモノ、目に見えない何かを信じて人と繋がりたいと願うこと。その体現である霊能者たちと対極にあり、「信じない」という形でテーマを補強した半澤さんが個人的なMVPです。自分に見えるものを信じる。自身のうちにあるものを信じる。自分の欠落を埋めうる他者を信じる。言葉を信じる。そうやって人と繋がりたいと願う。ラストに発された冷川さんの願いは、その意味が不完全であることを含めて三角くんへの信頼の証であり、彼らの関係のスタートラインでもあったと思います。

 

 

卒業したら教室で (似鳥鶏

 

 

 シリーズ二作目「さよならの次にくる」から一年が経ち、葉山くんにとって市立高校での二度目の卒業式がやってきました。伊神さんに次ぎ、今回卒業するのは柳瀬さんです。卒業と変化に加えて継承がきちんと為されるあたりにこの一年での葉山くんの成長を感じますね。去年は伊神さんに一言伝えるのにえらい苦労をしていたというのに……まあ今回もケツを蹴っ飛ばされてようやく柳瀬さんと会話できたわけで、まだ残る一年での成長の余地も多そうです。

 ミステリ的には異世界パートがやたらと目立っているような気がしますが、現在/未来/異世界いずれのパートにおいても今回の肝はフーダニットよりホワイダニットかと思います。八番目の七不思議はなぜ生まれ、なぜ作者は犯人を知り得て、そしてなぜそれを十二年間秘匿していたのか。「なぜ?」の向こう側にある少女たちの青春こそが、今回の謎の核だと思います。

 

 

覚悟のススメ   1〜5巻  (山口貴由

 

 変身ヒーローが怪人を倒す漫画……なんですけれどその勢いと熱が尋常ではなくてビビる。破夢子は開始数ページで出てきていい敵ではないと思います。あとがきで作者の山口先生が「もう書けないだろう」という旨のコメントを残していましたがそれも納得の熱量で、紙面が焦げつきそうなほど熱くて鬼気迫ってる。かと思えば急にふざけたりもするから怖いんですが……。

 B級エンタメの到達点と読んでいい出来栄えでめちゃくちゃ良かったです。なんか半スターシステムみたいなことになってるようなので他の作品も読んでみたい。

 

 

数学少女対文学少女 (陸秋槎)

文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

 

 初めての陸秋槎になります。ミステリに囚われてどうかしてしまった人の書くミステリが大好きなので、当然本作も大好きでした。

 取り扱うのはミステリ自体が抱えるどうしようもない不完全性。ミステリが持つ様々な制約をただ不自由をもたらす鳥籠と見なすのではなく、制約自体をを足場にして遊びまわらんとする前向きな意志がとても気持ち良かったです。ゲームはあくまでルールの上で行われるものであり、ならば明文化されているか否かに関わらず、すべての制約すなわちルールはゲームを助けるものでしかない。後期クイーン的問題をはじめとした様々な制限はミステリの限界であると同時に、多くの可能性を秘めた限りない大地でもあるはずです。不自由の中にあって自由を志すその姿勢は、レトリックの遊びにとどまらずどこまでも発展していくことだろうといちミステリ読みとして信じています。

 

 

ウマ娘 プリティダービー

dmg.umamusume.jp

 

 最近話題のスマホアプリです。なんとなく始めてみたらめっちゃ楽しくて、ひたすらスピード特化のウマ娘を育成しています。上のリンクはDMM版ですが私はスマホでやってるよ。

 これ育成パートはパワプロのサクセスみたいな感じって表現でいいんですかね。パワプロダビスタもやったことないんでわからないんですけど、ダイジョーブ博士もいるしきっと大きく違いはないはず……。ゲームシステムをろくに理解せず、パワーを上げたらどうなるのかよくわからないままたづなさんに従ってパワーを上げるダメトレーナーな私ですが、何人(何バ? ウマ娘をウマ扱いするのか人扱いするのかどっちが正しいのか)かグッドエンディングに到達できましたのでこのまま遊んでいきたいです。因子とかは相変わらずよくわからんけど。

 あとはレースムービーがめっちゃ楽しいです。すーげえ動く。まあ動く。構図も凝ってるし。実際の実況ぽくしてるからかたまに自分のウマ娘が全然画角に入らないところもこだわりを感じて結構好きです。オグリキャップのスキル発動して他をブッちぎるのがとても気持ちいいのでオグリさんばっかり育成してます。

 

 

 というわけで今回は7作品の紹介です。引っ越しとかでバタバタしつつも、立て続けに当たりを引けて嬉しかったです。次からもこれくらい書けたらいいな。

 あと最近めちゃくちゃSwitchが欲しいんですが、新居にWi-Fi環境がないという令和にあるまじき状況なので買うか悩んでます。ゼルダとかファイヤーエンブレムとかオンラインなしでも楽しいゲームいっぱいあるしいずれ買うとは思うんですが、電子書籍用のタブレットが先になるかなあ……。

 

2021年2月 まとめ

 

 何とびっくり二年ぶりです。忙しかったのと存在を忘れていたのと長い感想書くのがやたらと難航したのと、その他もろもろの理由で放置しておりました。正直存在を忘れてすらいた。

 それはともかく。今年はコロナ等もあり夏が過ぎたあたりから矢鱈滅法忙しく、小説は読めず感想も片手間でして。ならばリハビリがてら久々にブログでも動かすか、と思い立った次第でございます。久々すぎて文体がわからねえぜ。一番無難なですます調にしますか。

 さて、前書きはこのくらいにしましょう。いきなり一記事一作品は大変そうなので、今月読んで面白かった作品というくくりでいきます。三月分も書ければいいな……忙しくなりませんように……。

 

 

 五等分の花嫁 1巻~14巻 (春場ねぎ)

 

 五つ子ラブコメ。なんか人気だなあというのは知りつつ、しかし僕はヒロインレースとかいうやつに全然興味がないので今まで放置してました。結論から言うと超面白かったです。何がハマるからわかりませんし話題作はとりあえず手に取る癖をつけていきたいもんですね。

 しかしスタート時点では「よくあるラブコメ」という印象がぬぐえなかったのも本当。印象が変わったのは一連のキャラ紹介と前提の提示を終え、表紙が花嫁仕様になった七巻あたりからでしょうか。基礎問題を終えた後の応用問題といった様相で、同じ顔・違う個性を持った五人+αの人間関係を組み合わせバラしまた繋ぎ……そして決して五等分し得ない「花嫁」というゴールへ向けて進行していく。パズルのような展開に加え、入れ替わりギミックを無制限に使えるのも相まって読み味が完全にミステリでした。入れ替わりを一花が悪用し始めたときは本当にびっくりした……。いやほんと、ヒロインとしては四葉が一番好きなんですが、キャラクターとしては一花も好きです。修学旅行周辺での挙動がラブコメヒロインのそれではない。

 

 

 メダリスト 2巻(つるまいかだ)

どうしたらこんな不確かな未来に

期待をかけてもらえるひとになれるんだろうか

 

  冒頭のモノローグがあまりにも良いので引用。

 皆さんご存じ、新進気鋭のフィギアスケート漫画。「不自由な氷の上で、きれいな衣装を着て踊る」という競技の性質を主人公・いのりの問題と重ね、初舞台で昇華した第四話がとても良かったです。120%の喜怒哀楽で表現される少女たちの今はあまりに眩しく、同時にガラスのような鋭さで、切実な熱を感じました。未来を選ぶにはあまりに幼い少女たちと彼女らを導く大人たち。共に迷いながら司がいのりを導くように、姉の姿が妹を氷上へ連れ出したように、いのり自身がどこかの誰かの道標になっている事実に泣きそうになる。

 ゴールがメダリストである以上、彼女たちはまだスタートラインに立ったばかり。未来を選ぶにはあまりに幼い子供たちのこれからに、いったい何を見せてくれるのか。今から楽しみでなりません。

 

 

筺底のエルピス 7 継続の継ぎ手 (オキシタケヒコ

 

 時間停止の棺使いと因果を超える鬼、そして遥か天上に座す者によるSF叙事詩、待ちに待った最新刊。一気読みでした。一気読みしたせいでスケジュールがヤバくなったけど後悔はしていません。

 一巻通して戦い尽くしの巻でしたが、今回のハイライトはなんと言っても対霧島戦でしょう。「相手をよく知っている」前提で組まれる作戦が非常に面白かった。改めて見ても所見殺しが多すぎるぜ。

 そして霧島戦を含めた戦いのすべてが、「巨大な機械仕掛けの上で、しかし役者はあくまで人である」という点で貫かれるのが本当に好きです。不完全な人のゆらぎを理解しない異星体がいるからこそ、人間たちの不確かさと可能性の輪郭がわかる構図が見事。

 終わりを遠ざけるために戦ってきた者たちが織り成すタペストリーは本章でさらなる広がりを見せ、いよいよ最終章へとなだれ込んだわけですが、どうなるんでしょうねこれ。「絶望時空」とかいう容赦ない章タイトルが怖すぎるんですが。白鬼周りとか未だわからないことも多いですし、また首を長くして待つことになりそうです。一年くらいで続きが出たらいいなあ……。

 

 

シャングリラ・フロンティア (硬梨菜)

https://ncode.syosetu.com/n6169dz/

 

 私はなろう発のファンタジーというやつにてんで縁がないのですが、今回漫画版をきっかけに本作を読みました。こっちが漫画版。

 

 サブタイの通り、クソゲー好きの主人公が異常に完成度の高い神ゲー「シャングリラ・フロンティア」に挑戦するお話です。転生とかゲームに閉じ込められるとかじゃなく普通にゲームで遊ぶ話なところに結構驚いたんですが、別に珍しくないんですかね? なんかWEB小説ではゲーム=突然閉じ込められるみたいな等式が頭の中にある。

 ただ、私はこういう風にゲームをゲームとして楽しむ作品の方が好きかもしれません。主人公の行動原理が「世界を救う」とか「生き残る」とかではなく「思い切りゲームを楽しむ」なのがとても好みなんですよね。楽しそうな人は見てて楽しい。最近Vtuberのゲーム動画を作業のお共に垂れ流すことが多いんですが、それに通ずるものがあります。モンスターを狩ったり、友人を煽りまくったり。いいなあ。全然関係ないけどSwitch欲しくなってきた。

 あと印象的なのは圧倒的な読みやすさですね。700話超えてることにビビり散らしていましたが、驚くほど早く読めてるので案外早く追いつけそうです。ちょっとした空き時間にするする読めるというのは大きいなと改めて感じました。

 

 

 

 はい、というわけで漫画と小説二作品ずつの紹介です。デスノート短編集とかいぶそう最終章とか、なんなら最近よく聞く音楽とかなぜか急に始めたMTGとかでもいいし、もう少し何か書くつもりでしたがこだわりすぎるとお蔵になりそうですし機を逃す前に出しちゃいたいのでこれくらいで。小説もっと読みたいなー。

 

 

 

 

 

 

 

平成ミステリベスト・ひとりで延長戦

 

 平成が終わりますね。何が変わるとも思えませんが、しかしひとつの節目となるのも確か。色々あったらしい平成の三十一年をここらで振り返るのも良いでしょう。てなわけでツイッター上で行われました「平成ミステリベストアンケート」に投票しました。お祭りみたいで楽しかった。

 

納得のランキング。

 

 さてこの企画は読んで字のごとく、平成に発表されたミステリ作品から各々の好きな作品を選ぼうぜ! というものです。十作まで選んでいいよとのことだったので十作選んだんですが、まー悩みました。三十年ですし全然足りない。結果見てもけっこう票がバラけてて面白いですね。ちなみに僕が選んだのは以下の作品です。

 

 

 わかりやすい趣味です。偏りを少なくしようとしたはずなのに何故。

 でですね、十作じゃ足りないなってことで、投票も結果発表もすでに終わってるんですけど上記の作品以外でもこれいいよーって作品を特にオチもなくどんどこあげていこうと思います。いざ延長戦! 何作くらいあげようかな……

 

1.有栖川有栖「双頭の悪魔」

 ランキングでは堂々の三位。クローズドサークルの内外で起こる二つの殺人とそれぞれに対応する「読者への挑戦状」、そして二つの解答の交点に現れる最後の挑戦状と「双頭の悪魔」というタイトル。ロジック面の精緻さもさることながら、その構図がとても素晴らしい。

 

2.青崎有吾「体育館の殺人」

 誰か呼んだか「平成のエラリークイーン」が送る学園ミステリ。ひたすら「一本の傘」を起点としてロジックをこねくり回し、こねくり回し、最後にただ一人の犯人を指摘する。その経緯、結論、構図のどれもがとても美しかったです。

 

3.歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」

 ランキング十二位にして獲得ポイントジャスト100。サプライズという点で飛び抜けた破壊力を持ち、加えてラストに現れるタイトルコールが素晴らしい。そして同時に輝かしき青春ミステリでもあります。

 

4.長沢樹「消失グラデーション」

 果たしてグラデーションは消失したのか。ミスリードや全体図を考えると、最初から最後まで作者の掌の上だったように思います。ネタの方向性は薄々感づいていたのに、その徹底っぷりと意図された構図に全く思い至りませんでした。

 

5.相沢沙呼「マツリカ・マトリョシカ

 マツリカシリーズから密室とパズル、青春を志した長編ミステリを。女子高生のスカートに関わるロジックがとても良い。マッチ棒の箱から、一本の傘から、女子高生のスカートから論理の刃は犯人に届くのです。

 

6.似鳥鶏「さよならの次にくる」

 テーマは卒業と新学期。シリーズ半ばで探偵役が卒業、しかしさよならしても普通に以後のシリーズに出てくる伊神さんが大好きです。卒業もさよならも終わりの言葉じゃなくていい。

 

7.城平京「名探偵に薔薇を」

 「名探偵」という、ミステリが抱えた呪いへの献花。「小人地獄」を巡る一連のホワイダニットが面白い。名探偵は立場でもあり役職でもあり、おそらくはシステムでもあるのです。

 

8.斎藤肇「思いあがりのエピローグ」

 こちらも名探偵テーマの一作ですが、「思い三部作」の最終作であることに注意してください。最後に読んでね。テーマ故に事件を面白くしてはいけないという自縄自縛が祟ったか、シリーズ唯一の未文庫化なのが心底残念でなりません。名探偵とは、ワトソン役とは。

 

9.舞城王太郎ディスコ探偵水曜日

  この世の出来事は全部運命と意志の相互作用でできてるんだって。謎を解くこと、その意志。あまりに膨大な瓦礫の上で、それでも見立てを行い意味不明な論理を振るい、迷子の手を引き歩いていく。祈って踊る、その意志を描き出す凄まじいミステリです。

 

10.詠坂雄二「遠海事件」

 遠海サーガは全部好きです。ミステリとしてフィクション性を強く自覚しているところがいい。主題は「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」。そして、なぜ本作がメタフィクションとなったのか。

 

11.飛鳥部勝則「堕天使拷問刑」

 異形うごめく暗闇から、月を見上げる少年少女の物語。ツギハギを繰り返し完成したひとつの境地にあって、数多の傷をすら魅力に変える圧倒的な力強さが素晴らしい。少女は月へ、そして、少年は。

 

12.早坂吝「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」

 解決編で超笑った。ほんとに笑った。何がすごいってその笑った部分にこそ本格ミステリのエッセンスが詰まっているところですよ。すべてはただ一撃のために、という潔さが良い。最後まで「虹の歯ブラシ」と悩みました。

 

13.津原泰水ルピナス探偵団の憂愁」

 さよならの話。いずれ必ず訪れる別れのときから始まり、時間を逆にさかのぼって卒業の日にて物語は閉じられます。結果を知っているからこそ、彼女たちの歩みがどこか寂しく胸に響く。送られた黄金の輝きは褪せないでしょう。

 

14.麻耶雄嵩「メルカトルかく語りき」

 信じがたいコンセプトのもと編まれた短編集。あくまでロジカルに、お約束に則って、銘探偵の言葉が世界を完結させる。あるいはそれは破綻と呼んでもいいかもしれません。ちなみにフーダニット短編集です。

 

15.今村昌弘「屍人荘の殺人」

 これも外すわけにはいきませんね。盛り上がったなあと思いますし、これからもっと盛り上がっていくんだろうなあとも思います。キャッチ―で面白い本格ミステリです。さすがにもうネタバレ(?)していい? ダメ? 

 

16.古泉迦十「火蛾」

 美しいメタミステリ。炎のように揺らぐ世界で言葉を綴ること。確かなことが定まらなくても推理すること。人が死に、物語が動き、気づけば舞台の上には役者だけでなく語り部や読者すら立っている。

 

17.積木鏡介「歪んだ創世記」

 本は、物語は、これぐらい自由でいい。メフィスト賞ではこういう作品がたまに出現するから面白いですね。遊び心に満ちていて最後まで楽しかったです。なんなんだこの表紙は。なんなんだこのあらすじは。

 

18.清涼院流水「コズミック/ジョーカー」

 何が起こったのかまるで分らない。設定見てるだけで面白くてそこで満足してたんですけど、実際読んでみたらもっと面白かったです。全容が見渡せない巨大建造物がいきなり爆発したみたいな。違うかな。好きな探偵はピラミッド水野と九十九十九です。 

 

19.梓崎優「叫びと祈り」

「なぜ」を探るミステリで、雰囲気がとてもいい。異国の地で、違う価値観をもつ人たちのホワイダニット。どの視点も面白く、短編でびしっと決まっているのが贅沢です。最後が祈りなのも好き。

 

20.競作「五十円玉二十枚の謎」

「同じ問題編の『解決編』をプロアマ問わずみんなで書く」というお祭り騒ぎなコンセプトが大好きです。「現実で実際にあった問題編」に対し「実際にあったかもしれない解答」ではなくあくまで「解決編」を書こうとしているところが良い。ミステリはフィクションで、事実よりも寄なる小説が存在していて何が悪い。

 

21.西澤保彦「聯愁殺」

 短い問題編が終わったらあとはただただディスカッションによる解決編を繰り返すという徹底っぷりがとても楽しい。新たな証拠で推論が変化し、論理のスクラップ&ビルドを最後までたっぷり楽しめるのが魅力的。

 

22.黒田研二「嘘つきパズル」

 平成ミステリならラノベからも挙げないわけにはいかないでしょう。特殊設定「嘘つきルール」を扱った本作は全体的に馬鹿馬鹿しくありながら、決めるべきところはしっかり決めているのが気持ちいい。ラストがきれいなんですよ。

 

23.松村涼哉「おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界」

 人を騙すミステリという舞台において、わかりやすい道はミスリードに決まっています。なのにどうして騙されてしまったのか。ミステリの構図、ルールの運用がとてもうまいなと思います。

 

24.十階堂一系「赤村崎葵子の分析はデタラメ」

 語られるロジックはデタラメで、コメディもシリアスもあるエンタメで、読んでいてとても楽しい作品です。デタラメなのに筋が通っているように見えたり裏に語られなかった物語があったりなかなか気を抜けません。一作目は探偵の物語、二作目は犯人の物語、そして三作目は推理の物語。

 

25.加藤元浩Q.E.D. 証明終了」

 続きまして漫画編。このペースで名短編を量産するの凄すぎるとつくづく思います。「凍てつく鉄槌」「マジック&マジック」「立証責任」「Question!」「エレファント」などが好きです。

 

26.迫 稔雄「嘘喰い

 それぞれの賭郎勝負も縦軸もすんごくハイレベルなんですが、そのなかでもさらに「エアポーカー」が抜きん出て素晴らしかった。演出・展開・ドラマとどれもが一級品。そのあとのハンカチ落としもいいですね。

 

27.麻生羽呂今際の国のアリス

 ミステリかな。ミステリだと思います。だって彼はずっと答えを探していたから。「はーとのくいいん」はこの作品のラストにふさわしいゲームだったのではないかと。「答え」を探す歩みの最後に、世界の真実という大きな謎に、ちっぽけな人間が下した結論はとても美しく輝いて見えました。

 

28.石黒正数それでも町は廻っている

 複数のストーリーラインを巧みに操り、緩やかにつながる伏線で商店街という小宇宙を鮮やかに彩る手腕に魅せられました。始まりも終わりもなく、しかし時に劇的に続く日常は愉快な謎で満ちている。

 

29.「古畑任三郎

 最後に映像作品編。アニメドラマ映画ゲームはあんまり押さえられてないんですが、古畑は昔から好きです。好きな話はたくさんあったはずなのにもうあまり思い出せないのが悲しいので、そろそろもう一度観ていきたい。犯人と探偵の対決、あのシチュエーションがたまらなく好き。

 

30.「ケイゾク

 雰囲気がめっちゃいい。観ていて引き込まれます。映像美とか、登場人物たちの陰とか、映像作品は視覚イメージがかなり強く印象に残りますね。映画版もう一回観たいので今度借りてきます。

 

31.「アフタースクール」

 映画です。すっかり騙されました。ファミレスシーンのおかしさと、放課後の教室での答え合わせがとても好きです。大人たちにも放課後はある。

 

 

 はい、平成にひっかけて三十一作で終わりとします。一作家一作縛りもあり、まだまだ面白い作品はいっぱいありますが、長くなりましたのでここら辺で。改めて振り返ってみると、ミステリの枠を保ちつつも様々な方向へ進化を遂げていてすごく面白いですね。面白い作品はきっとこれからも尽きないんでしょう。ファンとしてそう思えるのがとても嬉しいです。

 次の元号でもミステリを追いかけていきたいな、と思います。それではまた。