平成ミステリベスト・ひとりで延長戦
平成が終わりますね。何が変わるとも思えませんが、しかしひとつの節目となるのも確か。色々あったらしい平成の三十一年をここらで振り返るのも良いでしょう。てなわけでツイッター上で行われました「平成ミステリベストアンケート」に投票しました。お祭りみたいで楽しかった。
【平成ミステリベストアンケート】
— 松井和翠 (@WasuiMatui2014) 2019年3月30日
投票者数 :175名
有効投票 :1698票
有効得点 :9343.5点
投票作品数:647作品#平成ミステリベスト
#平成ミステリベスト pic.twitter.com/9cTjq615NM
— 松井和翠 (@WasuiMatui2014) 2019年3月30日
納得のランキング。
さてこの企画は読んで字のごとく、平成に発表されたミステリ作品から各々の好きな作品を選ぼうぜ! というものです。十作まで選んでいいよとのことだったので十作選んだんですが、まー悩みました。三十年ですし全然足りない。結果見てもけっこう票がバラけてて面白いですね。ちなみに僕が選んだのは以下の作品です。
「夜想曲」依井貴裕
— 鹿太郎 (@shika1111555) 2019年3月23日
「ヴィーナスの命題」真木武志
「ふたりの距離の概算」米澤穂信
「丸太町ルヴォワール」円居挽
「翼ある闇」麻耶雄嵩
#平成ミステリベスト
以上10作順不同でお願いします
わかりやすい趣味です。偏りを少なくしようとしたはずなのに何故。
でですね、十作じゃ足りないなってことで、投票も結果発表もすでに終わってるんですけど上記の作品以外でもこれいいよーって作品を特にオチもなくどんどこあげていこうと思います。いざ延長戦! 何作くらいあげようかな……
1.有栖川有栖「双頭の悪魔」
ランキングでは堂々の三位。クローズドサークルの内外で起こる二つの殺人とそれぞれに対応する「読者への挑戦状」、そして二つの解答の交点に現れる最後の挑戦状と「双頭の悪魔」というタイトル。ロジック面の精緻さもさることながら、その構図がとても素晴らしい。
2.青崎有吾「体育館の殺人」
誰か呼んだか「平成のエラリークイーン」が送る学園ミステリ。ひたすら「一本の傘」を起点としてロジックをこねくり回し、こねくり回し、最後にただ一人の犯人を指摘する。その経緯、結論、構図のどれもがとても美しかったです。
3.歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」
ランキング十二位にして獲得ポイントジャスト100。サプライズという点で飛び抜けた破壊力を持ち、加えてラストに現れるタイトルコールが素晴らしい。そして同時に輝かしき青春ミステリでもあります。
4.長沢樹「消失グラデーション」
果たしてグラデーションは消失したのか。ミスリードや全体図を考えると、最初から最後まで作者の掌の上だったように思います。ネタの方向性は薄々感づいていたのに、その徹底っぷりと意図された構図に全く思い至りませんでした。
マツリカシリーズから密室とパズル、青春を志した長編ミステリを。女子高生のスカートに関わるロジックがとても良い。マッチ棒の箱から、一本の傘から、女子高生のスカートから論理の刃は犯人に届くのです。
6.似鳥鶏「さよならの次にくる」
テーマは卒業と新学期。シリーズ半ばで探偵役が卒業、しかしさよならしても普通に以後のシリーズに出てくる伊神さんが大好きです。卒業もさよならも終わりの言葉じゃなくていい。
7.城平京「名探偵に薔薇を」
「名探偵」という、ミステリが抱えた呪いへの献花。「小人地獄」を巡る一連のホワイダニットが面白い。名探偵は立場でもあり役職でもあり、おそらくはシステムでもあるのです。
8.斎藤肇「思いあがりのエピローグ」
こちらも名探偵テーマの一作ですが、「思い三部作」の最終作であることに注意してください。最後に読んでね。テーマ故に事件を面白くしてはいけないという自縄自縛が祟ったか、シリーズ唯一の未文庫化なのが心底残念でなりません。名探偵とは、ワトソン役とは。
この世の出来事は全部運命と意志の相互作用でできてるんだって。謎を解くこと、その意志。あまりに膨大な瓦礫の上で、それでも見立てを行い意味不明な論理を振るい、迷子の手を引き歩いていく。祈って踊る、その意志を描き出す凄まじいミステリです。
10.詠坂雄二「遠海事件」
遠海サーガは全部好きです。ミステリとしてフィクション性を強く自覚しているところがいい。主題は「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」。そして、なぜ本作がメタフィクションとなったのか。
11.飛鳥部勝則「堕天使拷問刑」
異形うごめく暗闇から、月を見上げる少年少女の物語。ツギハギを繰り返し完成したひとつの境地にあって、数多の傷をすら魅力に変える圧倒的な力強さが素晴らしい。少女は月へ、そして、少年は。
12.早坂吝「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」
解決編で超笑った。ほんとに笑った。何がすごいってその笑った部分にこそ本格ミステリのエッセンスが詰まっているところですよ。すべてはただ一撃のために、という潔さが良い。最後まで「虹の歯ブラシ」と悩みました。
さよならの話。いずれ必ず訪れる別れのときから始まり、時間を逆にさかのぼって卒業の日にて物語は閉じられます。結果を知っているからこそ、彼女たちの歩みがどこか寂しく胸に響く。送られた黄金の輝きは褪せないでしょう。
14.麻耶雄嵩「メルカトルかく語りき」
信じがたいコンセプトのもと編まれた短編集。あくまでロジカルに、お約束に則って、銘探偵の言葉が世界を完結させる。あるいはそれは破綻と呼んでもいいかもしれません。ちなみにフーダニット短編集です。
15.今村昌弘「屍人荘の殺人」
これも外すわけにはいきませんね。盛り上がったなあと思いますし、これからもっと盛り上がっていくんだろうなあとも思います。キャッチ―で面白い本格ミステリです。さすがにもうネタバレ(?)していい? ダメ?
16.古泉迦十「火蛾」
美しいメタミステリ。炎のように揺らぐ世界で言葉を綴ること。確かなことが定まらなくても推理すること。人が死に、物語が動き、気づけば舞台の上には役者だけでなく語り部や読者すら立っている。
17.積木鏡介「歪んだ創世記」
本は、物語は、これぐらい自由でいい。メフィスト賞ではこういう作品がたまに出現するから面白いですね。遊び心に満ちていて最後まで楽しかったです。なんなんだこの表紙は。なんなんだこのあらすじは。
18.清涼院流水「コズミック/ジョーカー」
何が起こったのかまるで分らない。設定見てるだけで面白くてそこで満足してたんですけど、実際読んでみたらもっと面白かったです。全容が見渡せない巨大建造物がいきなり爆発したみたいな。違うかな。好きな探偵はピラミッド水野と九十九十九です。
19.梓崎優「叫びと祈り」
「なぜ」を探るミステリで、雰囲気がとてもいい。異国の地で、違う価値観をもつ人たちのホワイダニット。どの視点も面白く、短編でびしっと決まっているのが贅沢です。最後が祈りなのも好き。
20.競作「五十円玉二十枚の謎」
「同じ問題編の『解決編』をプロアマ問わずみんなで書く」というお祭り騒ぎなコンセプトが大好きです。「現実で実際にあった問題編」に対し「実際にあったかもしれない解答」ではなくあくまで「解決編」を書こうとしているところが良い。ミステリはフィクションで、事実よりも寄なる小説が存在していて何が悪い。
21.西澤保彦「聯愁殺」
短い問題編が終わったらあとはただただディスカッションによる解決編を繰り返すという徹底っぷりがとても楽しい。新たな証拠で推論が変化し、論理のスクラップ&ビルドを最後までたっぷり楽しめるのが魅力的。
22.黒田研二「嘘つきパズル」
平成ミステリならラノベからも挙げないわけにはいかないでしょう。特殊設定「嘘つきルール」を扱った本作は全体的に馬鹿馬鹿しくありながら、決めるべきところはしっかり決めているのが気持ちいい。ラストがきれいなんですよ。
23.松村涼哉「おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界」
人を騙すミステリという舞台において、わかりやすい道はミスリードに決まっています。なのにどうして騙されてしまったのか。ミステリの構図、ルールの運用がとてもうまいなと思います。
24.十階堂一系「赤村崎葵子の分析はデタラメ」
語られるロジックはデタラメで、コメディもシリアスもあるエンタメで、読んでいてとても楽しい作品です。デタラメなのに筋が通っているように見えたり裏に語られなかった物語があったりなかなか気を抜けません。一作目は探偵の物語、二作目は犯人の物語、そして三作目は推理の物語。
続きまして漫画編。このペースで名短編を量産するの凄すぎるとつくづく思います。「凍てつく鉄槌」「マジック&マジック」「立証責任」「Question!」「エレファント」などが好きです。
26.迫 稔雄「嘘喰い」
それぞれの賭郎勝負も縦軸もすんごくハイレベルなんですが、そのなかでもさらに「エアポーカー」が抜きん出て素晴らしかった。演出・展開・ドラマとどれもが一級品。そのあとのハンカチ落としもいいですね。
ミステリかな。ミステリだと思います。だって彼はずっと答えを探していたから。「はーとのくいいん」はこの作品のラストにふさわしいゲームだったのではないかと。「答え」を探す歩みの最後に、世界の真実という大きな謎に、ちっぽけな人間が下した結論はとても美しく輝いて見えました。
28.石黒正数「それでも町は廻っている」
複数のストーリーラインを巧みに操り、緩やかにつながる伏線で商店街という小宇宙を鮮やかに彩る手腕に魅せられました。始まりも終わりもなく、しかし時に劇的に続く日常は愉快な謎で満ちている。
29.「古畑任三郎」
最後に映像作品編。アニメドラマ映画ゲームはあんまり押さえられてないんですが、古畑は昔から好きです。好きな話はたくさんあったはずなのにもうあまり思い出せないのが悲しいので、そろそろもう一度観ていきたい。犯人と探偵の対決、あのシチュエーションがたまらなく好き。
30.「ケイゾク」
雰囲気がめっちゃいい。観ていて引き込まれます。映像美とか、登場人物たちの陰とか、映像作品は視覚イメージがかなり強く印象に残りますね。映画版もう一回観たいので今度借りてきます。
31.「アフタースクール」
映画です。すっかり騙されました。ファミレスシーンのおかしさと、放課後の教室での答え合わせがとても好きです。大人たちにも放課後はある。
はい、平成にひっかけて三十一作で終わりとします。一作家一作縛りもあり、まだまだ面白い作品はいっぱいありますが、長くなりましたのでここら辺で。改めて振り返ってみると、ミステリの枠を保ちつつも様々な方向へ進化を遂げていてすごく面白いですね。面白い作品はきっとこれからも尽きないんでしょう。ファンとしてそう思えるのがとても嬉しいです。
次の元号でもミステリを追いかけていきたいな、と思います。それではまた。