鹿の積ん読

漫画を読んだり、小説を読んだり。好きなものの話をします

終わってないけど、終わる世界の片隅で(赤坂アカ「インスタントバレット」)

 祝・「かぐや様は告らせたい」アニメ化! 

 

  

かくして僕は世界の完全破壊に成功した

なんて 吐き捨てるのは簡単だけど

それはヒーローと敵と 使い捨ての僕らの 戦いの話だ

 

  ということで赤坂アカ先生の「インスタントバレット」のお話ってか感想ってかです。かぐや様の話じゃないです。かぐや様も大好きですけどインスタントバレット草の根運動をするなら今しかねえなと思ったので……。

 さてインスタントバレット(以下ib)は、かぐや様とは違ってジャンルは能力バトルものです。そしてかぐや様と同じく、ちっぽけな少年たちの小さな物語です。こちらの方はシリアス比が高めですね。かぐや様の体育祭編とか好きな人はibも好きだと思います。セリフ回しが素晴らしく、誰の言葉にもありったけの祈りが詰め込まれているのがいい。

 舞台は壊れることが約束された世界、役者は二十人の欠落した子供たち。詳しくないので確かなことは言えませんが、いわゆるセカイ系というやつに分類されるのでしょうか? 世界への呪詛は本作の根底に流れる重要なテーマですが、それは同時に極めて限定された「個人的な物語」でしかありません。痛々しく、弱くて、奪われ負け続けてきた孤独な少年少女がエゴを理由に戦うだけの物語。一巻まるまる使った長いプロローグにて、語り手のクロはこのお話を「とても小さな物語」と称していましたが、まさにその通りだと思います。

 ibは悪意の力だと、他ならぬibたちは言います。彼らの目標は世界を破壊すること。それぞれに運命を背負って、世界が憎いから壊すのだと言い訳のように叫びながら、不器用にぶつかり合う使い捨ての弾丸。泣きながら傷をえぐりあう姿は幼く不格好で、しかしぼろぼろになるその姿からは切実で確固たる意志を感じました。人は変われない。でも変われないなりに、それでも歩いてきたのだと。その足跡が素晴らしかった。

 正義の味方は存在しなくて、誰もが間違っているにもかかわらず、彼らが紡ぐ物語はうまく生きられない人たちへの祝福もどきに満ちていました。嫌いだ死んでしまえと世界を呪い続け、臆病さゆえに隠してしまったささやかな願いに僕は好感を抱かずにはいられません。最終話にて綴られた怒涛のモノローグを読んでほしい。

 奪われたから復讐すると決めた少年がいました。正義になりたい悪がいました。未来がないと諦めた少女がいました。居場所がない少年がいて、やさしくない少女もいて、人ではない人もいました。本作は五巻で完結を迎え、しかし世界は終わりませんでした。どこまでも無資格なibたちのエピソードが、惜しくも時間切れで幕になってしまったことが本当に残念です(詳しくは五巻のカバー裏をチェックしてください)。かぐや様が人気になって本当にうれしいのは、もちろんかぐや様が面白いからというのもありますが、ibの「あとがき」を読んでいたからでもあります。赤坂先生ほんとうにすごい。いつの日か、終わる世界の続きが見られることを信じています。