高校生の季節(米澤穂信「本と鍵の季節」)
米澤先生の新刊は二年ぶりらしいですが本当ですか? なんかもっと出てた気がする。いまさら翼といわれてもとか一年くらい前じゃない?
はいそれはさておき、今回は米澤先生の「本と鍵の季節」の感想です。二年ぶりらしいです。
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
やー面白いですね。米澤作品の含む毒というかほろ苦さというか、そういう形の祈りというか、そういうのがとても好きです。
主役を張る堀川と松倉は探偵役であると同時に、一介の高校生でもあります。どんなに聡く大人びていても、保護される立場にあることにかわりはありません。手はどこまでも伸びるはずだけれど、望む結果を引き寄せるにはまだ膂力が足りないのも事実。謎を解くという行為が事件の解決に直結することのほうが稀なのかもしれません。それでも彼らは謎に出会い、思考を巡らせます。結果を知ることはできてもそこから先には進めない。ミステリを終えた後に残る現実は高校生の手に余るもので、「友よ知るなかれ」という願いが込められた最終話の、そのもどかしい「苦味」に僕はとても惹かれました。ただ知るためだけの探偵行為。現実を変えない自己満足。それでも、たとえ気休め程度でも、目の前の友人が抱える荷物が少しでも軽くなったならそれはきっと苦いだけの思い出ではないでしょう。
ひとりのミステリ好きとして、知ること・知ろうとすることに意味がないとは思いたくはないのです。