鹿の積ん読

漫画を読んだり、小説を読んだり。好きなものの話をします

日々は過ぎ去り変わってゆく(しめさば「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。3)

 ひげ三巻の感想です。今回は三島が……三島が……。

 

 

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。3 (角川スニーカー文庫)

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。3 (角川スニーカー文庫)

 

 

 2人でいることがすっかり当たり前になってきた、家出JK・沙優とサラリーマンの吉田。自分とまっすぐ向き合ってくれる吉田と同居するうちに、沙優は自分の将来を見つめ、実家へ帰る覚悟を決めつつあった。そんなとき、吉田と同じ会社に、高校時代の彼女・神田先輩が異動してくる。吉田がかつて付き合っていたひと。予想もしなかった存在に、沙優の心はかき乱される。「私のことは、どう思ってる?」「吉田さんにとって、私って、何?」さらには戸惑う沙優のバイト先へ見慣れない高級車が現れて――サラリーマンと女子高生の日常ラブコメディ、波乱の第3巻。  

 二巻にてようやく未来のことを考えはじめた沙優。しかし現実はそんなこと斟酌せず、前触れすらなく波乱をもたらします。その一つが元カノ神田さんなわけですが、彼女がこれまたいいキャラクターをしていてとても良かったです。まっすぐ立って、自分や他人に向き合える人は素敵だなと思います。奔放なようでありながら、無神経に踏み込むことは決してしない。よくよく考えてみると周囲が荒れたのはだいたい吉田のせいっていうか、みんな勝手に悶々としてただけですし……。

 勝手に悶々としていた人代表の三島については、切ないとしか言えませんね……なにひとつ悪いことしてないのに……。本当に幸せになってほしい。「ずるい」という、物語への絶叫が胸に刺さって辛いです。本当に幸せになってほしい。めちゃくちゃ人がいいのにめちゃくちゃに割を食ってるのが悲しい。本当に幸せになってほしい。

 そういえばこのラノに載っていたしめさば先生のインタビュー読んだんですけど、小見出しのひとつ「正義とか悪とか、勝ちとか負けとかそことは別の部分にある価値を求めて」という言葉がとても印象に残りました。そういう作品だよなあ、と思います。

「JK」とか「ひげのおじさん」とか、もしかしたらシンプルな言葉は人の一面を簡潔に切り出しているのかもしれませんけど、ただそれだけの書き割りみたいな人間はどこにもいません。JKで、他人のことばかり考えていて、なのに家出なんていう無茶をして。ときに矛盾する感情すらを抱えながら、言葉にしきれないほどたくさんのパーツが組み合わさって生きているのが人間です。そんな僕たち私たちだから正しさだってひとつではないと。吉田にとっても沙優にとっても、違う視点を持っていて、かつ誠実に向き合ってくれる人たちがすぐそばにいてくれたのは本当に幸運だったなと思います。彼ら二人の共同生活は彼ら以外の人間、三島とかあさみとか後藤さんとかがいなければ成立しなかったでしょう。価値観が違うということ、違う人間を尊重するということ。自分以外はすべて自分ではないのだとただ気づくこと。

 三島についてもそうなんですけど、「これが正しい」「あれが勝ち」だとかかっちり決めてしまうことは、それからあぶれた人間にとってひどく残酷です。その残酷が大事な時もありますが、もっと別の、きらきらしている名前のない何かしらが彼らの救いであったり、道しるべであったり、あるいは温かいホットミルクであってほしい。もうひとつの波乱がよい形で終わりを迎えますように。そして、彼らの未来が穏やかで満ち足りたものでありますように。そう願ってやみません。四巻はやく!