誰かの頭の中の水槽(詩野うら「チラシのウラ漫画」ほか)
チラシのウラ氏改め詩野うらさんの漫画が本になるそうです。というわけで今回はweb漫画「チラシのウラ漫画」のお話です。
書籍がこちら
サイトがこちら。短編漫画がたくさんあります。
今回webサイトから書籍化されたのは「有害無罪玩具」「虚数時間の遊び」「金魚の人魚は人魚の金魚」の三編で、さらに書き下ろしも収録されるとのこと。「有害無罪玩具」から詩野さんを知ったクチなのでとても嬉しいです。
幻想的な世界、形而上を揺蕩うようなセリフ群、余韻を残すラスト、それらを支えるきらめくアイデアの数々。一作読んでいただければ雰囲気はわかっていただけると思います。てなわけで現在公開されている作品の中からおすすめをいくつか紹介しますので、琴線に触れる作品があればぜひ読んでください。ぜひ。
1.現代路上神話
道の神というものがいる。下半身は一つで、上半身はいくつもに枝分かれしている
それは道を歩き続けている神で、道が分岐していると
そんな書き出しから始まる「道の神」をはじめとして、現代に存在する神々についての途切れ途切れの記述がまとめられており、ひとが認識する「ただ在るだけ」の神話からひしひしとセンスオブワンダーを感じる作品になっています。現在公開されている中では一番おすすめ。最後に置かれた「結文」の記述が素晴らしいんですよ。個人的には「ガラスの神」がお気に入りですね。
2.偽史山人伝
偽史とはまがいものの歴史のことである。しかし山人は存在していた。
上記は「あとがき」からの抜粋ですが、「偽史」の意味するところは自分の目で確かめていただきたい。人の形をした動物の歴史、そのごく一部の確かな脈動を感じます。グロいので苦手な人は注意してください。
3.虚人の夢
人は死ぬと現象になる
遠野は死んで、「水滴」という現象になった
死と夢の話。あらすじの紹介が非常に難しいですね……。いくつもの夢、死、何もかも違う幻たちがひとつの根っこからのびている。そんな感じです。読んでください。
4.人魚川の点景
お前みたいなのを 神隠しにあいやすい気質っていうんだろうな
人の行かない所に行き人が見ない物を見て
人と違う方を好むひねくれものを
だからお前は風紀委員で
だから
お前はこんなものを見つけちまうんだ
「点景」とは風景全体を引き立たせるための人や物だそうです。作中でも言われていますが皮肉っぽいですね。最後のページがとてもきれいで、余韻を心地よく感じてしまう罪悪感が良い。フラスコの中の人魚をめぐるどうしようもない現実の話です。
そんな私たちの物語は
少し変わった体質を持つ少女たちの物語もどきのプロローグエピローグ。「生きたまま死ぬ体質」がそのまま話の中核になるのがきれいです。これも最後のページが素敵。
それは一瞬で終わることなのだけど
脳の機能が止まるその一瞬前
脳が最後の電流を流すその一瞬のあいだ
死を想う。ありふれた走馬灯を「窓」「写真」「道」など六つのモチーフを用いて描写するオムニバスになっています。ひどく後ろ向きなようでありながら、なんだかさわやかな気持ちになるのはどうしてなんでしょう。
以上、とりあえずおすすめ六編です。連作形式の帽子日記シリーズや雨女シリーズなど、面白い漫画が他にもいっぱいありますので一度サイトを覗いてみてください。どれも生や死、一瞬と永遠、あるいは形がなく答えのないあいまいなものをテーマにしていて、読めば読むほど面白いです。金魚みたいにぐるぐる回る思考を楽しめる人には強く勧めたい。くらくらしますよ。
はい、チラウラ漫画の紹介でした。書籍化に伴いwebでの公開が終わってしまった「有害無罪玩具」には詩野うら作品の魅力が詰まっているのでぜひとも書籍版を! 購入してください!!