鹿の積ん読

漫画を読んだり、小説を読んだり。好きなものの話をします

L・O・V・E!を繋いで(リレー小説「ネコのおと」)

 富士ミスが生んだ問題作、「リレーノベル・ラブバージョン」こと「ネコのおと」の感想です。ネタバレまみれですのでお気をつけて。

  

 

  

 

 

 ひどいですね! 素晴らしい! 途中からずーっとグダグダなのに娯楽として成立しているのが特に素晴らしい。では一人ずつ順に感想を書いていきます。

 

第一話「覆水盆に返らず もしくは初体験というくらいだから二回目はないよねという話」新井輝

 本作のフォーマットを決めたはずだった第一話。かなりの親切設計ですね。本作のルールを明文化して、各話の流れまで決めてくれています。

 すなわち、「学級日誌に書かれた内容を遵守する」「一話につき一日」「次の作者さんに『縛り』を与える」などの決まり事が「ネコのおと」の基本形になると決定づけたわけです。これ新井先生が考えたのか企画段階で決まってたのかどっちなんでしょうね? 新井先生考案だとしたらかなりファインプレーだと思います。わかりやすい指針があれば暴走しにくいのは確実ですから。

 もっとも、後ろの作者さんたちがきちんとルールに則ってくれればの話ですが……

 

第二話「百個くらい考えれば一つくらいはマシなのあるんじゃないの?」築地俊彦

 二話目にしてフォーマットから外れる。次の人にルールを投げるのではなく「いかにして前日のルールを打ち消すか」をこねくり回すある意味ミステリらしい回になっています。面白かったですが、すでに雲行きが怪しい。単話でみればよくまとまってるんですが、この回単体で一旦オチちゃってることが水城先生の暴走の遠因になったのではないかと思います。ここで展開がリセットされた結果、水城先生があらぬ方向へスッ飛びます。

 

第三話「存在を消してやるなんて誰が言った!?」水城正太郎

 メタ時空突入。まだ折り返しにもたどり着いていませんが早くも危険信号です。やっぱりこれくらい無茶する人がいたほうがリレー小説は盛り上がりますね! 作者とキャラが同じ空間にいる、日誌のルールがなぜか大きくなる、脈絡なく宇宙人が出てくるとやりたい放題です。ページ数は一番少ないのに最も強く印象に残ったのは彼で間違いないでしょう。裏MVPをあげたい。

 

第四話「真ん中は楽でいいですねという話」師走トオル

 ここにきてミステリっぽくなるというまさかの展開。ホワイダニットが馬鹿馬鹿しくて笑えます。これが富士ミスか。L・O・V・E!なのか。「真ん中は楽でいいですね」の文言の通り、水城先生の暴走を受けてまとめに向けての流れを作った回です。オチは誰かが考えてくれますからね。

 そして最終ページの血も涙もないキラーパスがひどい。本当ひどい。

 

第五話「≪俺≫は呻いた――」田代裕彦

 そろそろ悲鳴が聞こえてきます。暴走のしわ寄せを受けた田代裕彦が死ぬ回です。ミステリ適性の高い田代先生が前半組の情報をめちゃくちゃ頑張って整理、無から伏線をひねくりだすという見事な仕事っぷりに惚れ惚れします。わりとみんなルールの把握が大雑把だと判明し、いよいよ収拾がつかなくなってきました。「強制力」に関しては新井先生ですらアバウトな認識だったのではないかと感じるのですが実際のところどうだったんでしょうね……。

 あと、この時点で田代先生が想定していた真相が気になります。どっかに書いてないかな。

 

第六話「こっからオチにこぎつけろっていうんですかっ!?」吉田茄矢

 吉田先生のパニックが伝わってくるような話でした。マジこんな原稿が回ってきたら絶望しますよね。泣きながら原稿を書いた結果作家がことごとく死ぬやばい展開に陥っています。学級日誌がホラーアイテムみたいな扱いになっていますがどうしてこんなことになったんでしょう。誰が悪かったのでしょう。水城先生? 奴はキャトルミューティレーションされました。

 しかし吉田先生、かなり道筋を整えててすごいですね。死人ラッシュはともかくなんかそれっぽい展開になってる。プロですね。

 

第七話「ザ・ファイナル・バトル!(え、バトル?)」あざの耕平

 というわけで回ってきた原稿を読んだら自分が死んでいたあざの先生の担当回にして最終話です。素晴らしい。ここにきて犯人解明プラス「LOVE寄せ」まで達成し、さらに各作者の心の声を代弁するというこれ以上ないくらいに「富士ミス企画・リレー小説の最終話」にふさわしい話でした。ラストの啖呵には感動すら覚えます。あざの先生は完全とばっちりで巻き込まれた形みたいですけど、彼がいないと成立しない企画だったでしょうね……プロの悪ノリ怖ぇ。

 

 そんなこんなで予想通りカオス極まりない展開の連続でしたが、奇跡的に(というより後半三人の尽力により)作品として成立した点に驚きを隠せません。すごく面白かったです。叶うなら舞台裏というか、作者さんたちの対談あるいは反省会みたいなのが見たいですね、あれの意図は何だったのかとか、個々の解釈はどうするべきだったとか。あざの先生は怒っていいと思う。

 こういう企画、もっと見てみたいですね。挑戦的なレーベルがどこかにないものか……。